だからわすれたふりをして

 最近、弱い。

 甘い。市川ぴょんに甘い。弱い。市川ぴょんに弱い。どうしようもなく狼狽する。だらしない。頼り、には昔からされてないからどうでもいい。信頼もどうでもいい。どうにかしたいのは弱さとか甘さとか。 (でもそれが心地好くて)

 しょうがないなあ、と笑う事は出来るんだけど、仕方ないなあ、と諦める事はしたくない。
 それはきっと市川ぴょんも少なからず思ってるだろう事だから心配には値しない。

 飴を好んで舐めている。
 それは持続性があるからで、別にチョコとかでも良い。飴玉が極めて口の中で転がすには丁度好く、唾が出て口渇の心配もせず、序でに脳味噌に潤いを齎してくれそうな気がするから尚更好む。

 市川ぴょんは時々あたしが舐めている飴を欲しがる。
 前、それでキスした。 >(わー、恥ずかしい? イエイエ)

「甘くない飴って無いんですか?」
「あると思うヨ。欲しい?」
「ください。ひとつ」


 イエイエ、そんな事はありゃしませんぜって言ったって信じてくれないんじゃ元も子も無えやい。
 信じるとか信頼とか信用とかあたしの非日常成る日常にはとことん不必要な言葉に唾棄してオサラババイバイ。又いつかお目にかかる日迄さようなら二度と現れるな。


「行き詰っタ?」
「人生に」
「嘘コケコッコー」
「私だって人並みに悩んだりするんですよ、月並みなものの考え方かも知れませんけどね。今日はどうやって過ごそうとかこの後どうしようとか授業サボる訳には行かないからどうしようかとかセンパイをどうやって自分の教室に戻そうかとか、センパイはそうゆうのとは無縁ですから分かんないんでしょうけど」


 毒を吐く市川ぴょんは最近毒に益々磨きがかかってオネエサン嬉しい。涙出ちゃう。
 毒を吐いてる癖に笑みを浮かべてる所なんかあたしとそっくり。溜息出ちゃう。
 キスしたい。

 くちびるにキスしたら毒が滴るのだろうか。それも少し不思議だけど体験してみたい。毒の滴るキスなんて最高。それで死んじまったらザ・有頂天。毒林檎も真っ青な君のくちびるにくちづけを落としたい。僕は参っちまった。今なら米神撃ち抜いても構わねえぜ。甘んじて笑って許してやろう。


「ワチキが無計画とデモ?」
「いいえ、まったく、これっぽっちも。センパイが無計画だなんてそんな恐ろしげな事は」


 偶には息抜きも必要だけどあたしが息を抜いたら総勢で掛かってくるからいつだって息は抜けない。偶にはお遊びも必要だから日常に少しのエッセンスを加えてみれば最近の市川ぴょんは直ぐそれに気付いてくれるから尚嬉しい。勘の良い子に育って欲しいと光源氏育成計画も吃驚な事を考えていたら、ほんとうに勘の良い子に成ってくれてオネエサンは又々嬉しく成っちゃった。

 唯、聊か勘が鋭過ぎる所はあたしの真似っ子なのだろうか。
 それも極偶に。のお話で、日常間ではそんなに緊張し過ぎていないからゆるやかに時は流れる。

 でもそんなゆるやかな時間等許してくれぬ奴等は願ってもいないのに山程居る訳で。
 今日もその通達が朝も早よからお待ちかねで。


「あたし、行かねば成らん」
「センパイって意外にマメですよね。吹っ飛ばしちゃえばいいのに」
「アララ、大層な事を仰りますわ、この子っタラ」
「実際そう考えでるんでしょう? いつか吹っ飛ばしてやるとかとんでもない事を企んでいるんでしょう? センパイの事だから私の考えの斜め上辺りを高速で突っ切ってくれると思うんですけど、どうせ禄でもない事を仕組むんでしょう、色んなものを巻き込んで?」


 ほらほら、勘の鋭い子が通りますよ。
 お前ら道を開けろ。誰も道筋を阻むな。邪魔する奴は皆殺しにしてやる。あーキスしたい。


「勘の良い子は困りますワナー」
「私の言ってる事の半分以上はちっとも当たってない癖に、良く言いますよ」


 あー、キスしたい。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。