あさまだき、ほしはひかる

 君に逢いたい


 早起きは三文の徳とゆうが実際得をした例が無かった。
 朝から訪れるやっこさんは訪れるし、服を血塗れにするのは真っ平御免だ。なのに朝も早くから遣ってくる面々は決まって逆三角形の紋様を付け、ソレを自慢げにご披露する。対応は様々だが良い方向には行った例が無い。あらゆる攻撃の技を以ってして早急に対処する。


 君に逢いたい
 今直ぐ逢いたい
 そしてこの馬鹿らしい状況に対しての君の辛辣な一言を聞きたい


 未だ夜も冷め遣らぬ熱狂の渦、朝靄の中で神様に近しいものを見た。神が架空の人物では無いのだとしたらきっと神様はあんな風に現れるのだろう。それかもう神を見ているのかも知れない。小さなものに信仰を抱けるものは見えぬものにも信仰を抱けると昔聖書の一文で見掛けた。それならばいま此処に居ない人間に対して情愛を抱ける僕はそれ以上の存在では無いだろうか。


 君に逢いたい


 未だ月も星も顔を隠す暇も無い頃、天に向かって血塗れの手を翳した僕はまるで狂っている。滴る血液がくちびるから体内に入らない様に最善の策を練って、天に向かって手を伸ばす。唯ひたすらに手を伸ばす。天は手に入らない。天に手は届かない。だけれども伸ばした。その手は誰にも阻まれる事無く空へと向かう。金平糖が手に入る事は無いとしてもいまはこの手を掴む人間は居ない。生存反応がある人間は全て抹殺したからである。至極簡単な理由だ。


 君に逢いたい
 けれど君はいまの僕を見たらどんな顔をするのだろう


 奴等の返り血で虚しくもおじゃんに成ってしまった服は仕様が無いのでクリーニングにも出さないで可燃ゴミの仲間入りだ。不意に思う。ずっとこんな事を遣り続けるのだろうか。ずっとずっと何年も何十年も同じ作業と同じ朝を迎えるのだろうか。そうだとしたら何て悲劇なんだろう。もしくは喜劇かも知れない。悲しみは時にひっくり返る。泣いては成らないのだとすれば笑って過ごすしか道は無い。つまりはそうゆう事。


 君に逢いたい
 僕を陥れるどんな卑劣な言葉を浴びせられても君に逢いたい


 僕の世界の半分以上が君で構成されているいま現在、君の言葉は何よりの潤いに代わるし、君の存在が嘘だとしても僕は甘んじて受け入れようと寛大なこころを示す位に困ってしまっている。辛辣な言葉が嘘だとしてもその奥に潜んでいるほんとうの言葉を敢えて泳がす真似をする。酔狂だ。

 誰かが君の事にケチを付けたら僕はその人を殺してしまうかも知れない。生きるより殺す方がよっぽどリアルな今日この頃、朝まだき、君は未だ寝ているのかな。どんな夢を見ているのかな。君の睡眠を妨害する奴が居たらどんな奴でも容赦しない。それが神様だろうと容赦しない。


 君に逢いたい
 頑張って頑張って転んでしまっても又頑張れる程、君に逢いたい


 こんなに沢山の人が僕を求めて死んでゆく。その事実を知った時君はどうもしないのだろう。結局どんな事が起きても僕と君が交わる事は無いのだ。僕がどんなに君を想おうと、僕と君は最後迄他人なのだから、他人を超えられる程僕等はきっと強くは無い。弱くないけれど其処迄非道で居られるのだろうか。他人の枠を飛び越えて世界を超越して一緒に太陽に飛び込んでしまいたいと思う事象は多々あるけれどさ。


 君に逢いたい
 ビューティフルデイ、君が居なけりゃモノクロキネマ


 食後の一服成らぬ、情事後の一粒。飴と君は僕を潤す唯一無二の存在。二者択一を迫られる事が今後もしあるとしたらそれはトチ狂っている僕等が日常的に交わす会話の一部だろう。そうしたら迷わず君を選ぼう。何故って答えは簡単。君は無限の可能性を秘めているのに飴は僕の口の中で僕の思った風に転がって理想通り溶けてくれるだけ。もしかして君も僕の予想通りに動くものなのかな。そうしたら僕はもう何も欲しようとは思わないけれどいま僕は君を欲している。


 君に逢いたい
 今直ぐ逢いたい
 君に逢ったら迷わずこう言うんだ。「おはよう」の一言を一番先に。


 逢いたいよ。逢いたい。何て世界は色を失っているのだろう。血の赤だけが嫌に鮮明で、目の中には白と黒と灰色と赤しか映らない。赤は良く掌に映えた。握るとぬめっとして掌の端から零れ落ちた汚い血液。物事がどうも淡白で仕方ないと思っていたら、矢張り君が此処に居ないからなんだ。君が居て初めて世界は僕等に耳を傾ける。その後は知らない。世界が僕等を見捨てようと興味は無い。僕と君は勝手気儘に新しき世界を構成するのだから。神等居ないと嘆くのはもっとずっと先の話だ。

 そうして作られた世界には名前が無い。構成物質は君と僕。イカレた僕に罵声を浴びせる君が居る。嬉々する気持ちが余りに多過ぎる暮らしには心底呆れ果てたけど未だ疲れてはいない。嬉々する度に違う感情が生まれる。嬉しいのか悲しいのか寂しいのか淋しいのか狂っているのか慈悲を求めているのか神よ神よと叫んでいるのか分からない暮らしは余りに楽し過ぎる。


 君に逢いたい
 毎日毎日一日の一番最初に出会えるのが君だったらいいのに


 贅沢が敵だとしたら僕はもう敵に成っている。毎日僕は君に逢う度に贅沢だと感じるのだからしょうがない。君と話し、他愛無い事で笑い合い、そんな毎日はいとおしい。不恰好な僕は強い振りを覚えたけれど君の前ではボロ糞に成る。不器用な僕は器用な僕の真似をしたのに君の前ではそれが全て無駄に成る。

 如何しても淋しがり屋で好い加減な僕は、君に熱や愛を求めているのに反して、冷酷なる感情を日々鬱積し続ける。いつしかそれは暴発し、己へと向かうだろう。それを留めてくれるのは君ひとりだけ。毎日血だらけの生活を送っている反面、毎日がいとおしくて仕方ない。昨日も今日も明日も、君が居れば愛おしくて狂おしくて仕方ないのだ。だから早く君に逢いたい。