もてあそぶように沢山の嘘をついた

 これが運命なのでしょうか?

 喉から血を絞り出す程の絶叫をBGMに屋上の鉄柵から足をぶらぶらと垂らしている。階段の奥からは後から後からぞろぞろと金魚の糞が付いて来る。奴等の姿を目に捉えた時、一瞬、笑う。禍々しく静粛にいかがわしく鮮明に妖しく天使の如く。つぶやく。

 Defeat the current state.
 Sorry, there will be no time any more.

 Ah!

 アア、そうだ。君が居なければこの世界等必要無い。それ程君に思い入れのある僕はきっと君を簡単に単純に裏切るのだろう。その日は間も無く訪れる。もう時間が残されていない。指の隙間から希望が流れ落ちた。必死に掴もうとももがけども指の合間から光が零れる様に僕が今迄大切にしてきた全てがはらはらと涙の様に零れ落ち、最後には何も無くなった。

 ――The end? Never!

 Yeah here we go for the hundredth time.

 Audentis Fortuna iuuat.

 だがそれではつまらない、未だおしまいには遠過ぎる。未だ足掻けるのではないのか。この手は、この足は、この頭は、未だ使い物に成る。指から爪が剥がれ落ちようとも足の骨が全部折れても脳味噌が腐って犯されても、YES, gloria! 又立ち上がるのは至極単純明解な理由。

 Even if everything is disclosed, it isn't good.
 Because I pray to a compensation, chorus a shotgun, please.

 ソウ、「Even if a grave is dug, a secret doesn't come out ahead of it after everything finishes revealing everything.」と腹を括れば遣る事は早いだろう。死ねばオサラババイバイ。何も誰に喋る事無くひとり水底に沈めばいい。沈殿する泥と共に塵から生まれたものは塵に戻り、鼻腔の息を止める。

 君に沢山嘘を吐いたね。何一つほんとうの事は無かったと言えば無かった。でも君と過ごした日々は紛れも無くほんものだった。どっちが夢だったのか分からなくなる位衝撃的だった。未だ僕は夢の中の住人から抜け出せない。君と居たのが夢なのか、君が居ないのが現実なのか、僕は未だ検討がつかない。撃鉄を起こす音がリアルで現実に引き戻される感覚がする。硝煙のにおいと人の血のにおい。生存反応のあるものを全て殺し、屍の絨毯を優雅に歩く僕。全てが混じり合って嗅覚を痛烈に刺激する。

 It's false love, but love isn't a lie.

 君と見た夢の話をしようか。いつか、何処かで、又巡り合う事があったらの話だけど。
 アア、やっぱりやめにしよう。未来の話はするもんじゃない。
 ほんとうの意味でお先真っ暗、だって僕は此処からダイブ。

 ビルの屋上から躊躇せずダイブ。スモークで汚れた漆黒の闇を見上げれば、愛らしく憎らしい神。

 神よ、これが運命とゆう奴なのかね? これが定めと呼ばれる何かなのかね?
 だが残念だ。僕にはそのエンディングは似合わない。

 Well, you'll do talk of a seen dream.

 Who lived?

 Ex nihilo nihil fit.

 神よ、もう慈悲を乞う事はしないだろう。オウマイゴッド! 神よ、神よ! と叫び祈っている間に銃弾が髪の毛を掠める日々の中、いま。夢見心地の世界から抜け出し血腥い地に踏ん張り唾を吐いた。ド畜生、空を見上げて発砲。Who lived? ノンノン、ゼロだよ、ゼロ。誰も生き残っちゃいなかったのさ。僕だって君だって皆死んでいたのさ。その中で立ち上がるものが未だ居たとすればそれは、





 センパイが音楽を口ずさんでいる。ラララ、魚が呼吸する様に口をぱくぱくさせながら音を把握していく。唯の空気だった音は段々と音階に合わせられ、遂には音楽と成り果てに言葉に変貌した。一連の動作は簡単に見えるのに、私には同じ事が何一つ出来ない。当たり前の話なのだけれど。


「単三電池で動いてるんですって」
「レアっぽく単四だったらイーのに」
「否定しないんですか?」
「べっつにサー、ソウ思われても構わんし、唯の噂に一々反応してたら身が持たんし」


 センパイはと言えばいつもの様に窓際の席に座り、飴を舐めながらグラウンドを見下ろし、私の宿題にチョイチョイっと簡単に手伝ってくれる。私はと言えばセンパイの指摘する数式を当て嵌めて問題を解き、それをノートに書き残すだけだ。飴を舐める音とシャーペンの走る音が何となく大きく聞こえる。


「センパイが三階から飛び降りたりするからじゃないですか」
「階段使うの面倒臭かとー」


 どんな塩梅でセンパイが階段を使わないのかは分からないが、だと言って三階から飛び降りるのは余りに奇抜な行動ではないのか。人の注目を集めるし、何より三階から飛び降りているのに傷一つ無く、きちんと着地してから猛スピードで走り出すのだから矢張りセンパイがロボットなのだ。とゆう誰かから発生した噂が急速に広まるのも無理は無い。そんな噂を逐一真面目に受けたり、信じている訳では無いが、このひとを突き動かすのは衝動と言うよりも、目まぐるしく変化する計画だ。

 センパイが無言に成ればこっちだって喋る言葉を失ってしまう。頭の切れるセンパイなら私の杞憂等直ぐに分かってしまうのだが、敢えてセンパイは言葉の先を繋げようとはしなかった。まるで意固地に成って拒絶する子供の様に。そんなの似合わないのに、まったく、全然。


「今、退屈ですか?」
「ナンナノー」
「物凄くつまらなさそうな顔してますよ」


 そう言えばセンパイはニィーッとわざと笑んで見せた。そしてその後鼻で笑った。馬鹿馬鹿しくて馬鹿馬鹿しくてしょうがないと言った風に腹を捩じらせ笑った。私には理解出来なかったから私の視線はぽつねん、とノートへ向けられた。私の文字が並んでいるノートが此処には確かに存在している。


「ナラ楽しい事を遣るべか」
「あっち向いてドーン、はお断りですよ」
「そんなチンケな事はもう止めダ。もっとずっとデケェ事をしよう、拍手大喝采、観客総立ち、アンコール何十回。記録よりも記憶にこびり付く様な事だヨ」


 センパイが嘲笑を込めてそう言った。私は付いていけずに踏鞴を踏んだ。このひとが今から遣ろうとしている事を私は何も分からない。知りたいとも思わない。前に知りたいと思ったけれどセンパイがその時その瞬間感じている事等きっといつ迄経っても理解する事は不可能なのだから、それよりも先ず目の前の事態を収拾してから物事に着手しようと決める、けれど、物事はそう簡単に回らない。

 このひとは簡単に世界を回してしまうひとなんだけど。


「何が必要ですか」
「オ。ノるね、チミ」
「でもセンパイがしたいのはそんな事じゃないのでしょう?」
「ハテ?」
「だって何かが爆発したり何かと戦ったり、そんな事はセンパイの日常なんでしょう。私の日常はこうやって勉強したりするだけなんですけど、こうゆうのはセンパイの非日常なんでしょう? それ位、知ってますよ」


 ぶっきらぼうにそう言ってみれば、センパイはニヒルな笑みを浮かべるだけ。沢山の嘘を吐いたのにセンパイは指摘しなかった。少なからず当たっているのか見当違いの所に素っ飛んでいるか分からない。センパイは極悪人で非道で淋しがりやで一本木で人間と懸け離れた振りをしている不器用なひとなのだから。

 そうしたらセンパイは一瞬顔から笑顔を消して、素早く表情を変えて違う人間の振りをした。私は余り賢くないからセンパイのその変動に付いていけず、このひとは一体誰なのだろう。と不意に疑問視を頭に浮かばせた。このひとは、誰だろう。でも直ぐにセンパイはいつもの調子を取り戻す。その一瞬、一瞬だけセンパイは世界を拒絶して「センパイ」と言う存在を抹消させた。


「日常とは得てして不愉快なものダ。退屈で単調で浮き沈みが何も無い。だがコレは正常な世界でないのは承知の上で御座います。シカシ、起こる全てを見届けた所で今も昔もあたしの遣る事は決まっていル。目の前を阻むものを退かせ、罵られようとも笑い続けるだけサ」